浦和地方裁判所 昭和57年(ワ)537号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
【判旨】
1 <証拠>を総合すると次の事実を認めることができ、この認定を左右するに足る証拠はない。
(一) 緒方健次(以下、緒方という。)は、昭和四七年三月ころ、知人から、本件地区にゴルフ場用地として適当な土地があるので、買主を物色している旨聞知していたところ、同年四月ころ、ゴルフ場用地を探していた山口と知り合い、同人に本件地区内の土地を紹介した。山口は、現地を見分した結果、本件地区内の土地をゴルフ場用地とする意を固め、緒方にその買収を依頼した。これを受けた緒方は、直ちに地権者名簿(本件地区内の地権者数は一五二名)を作成し、同年五月、美里村村長、同助役、同村会議員、農業協同組合の組合長、地権者十数名に会い、これらの者からゴルフ場建設に好意的な反応を得た。このため、緒方と山口は、同年一一月には、本件地区にゴルフ場を建設することが可能であるとの結論に達した。
(二) 山口は、本件地区にゴルフ場を開設する件につき、ゴルフ場経営の経験がある正垣浄二(以下、正垣という。)と長崎順一(以下、長崎という。)、それにゴルフ仲間として親交のあつた古谷に相談した結果、山口、正垣、古谷の三名の出資により資本金一〇〇〇万円の会社を設立することにし、昭和四七年一二月一五日関東総合の会社設立登記を経由した。
一方、山口らは、関東総合の設立前から、その役員となることが予定されていた山口、緒方、長崎、古谷が、いずれも会社経営者としては若年であり、経営者としての知名度もなかつたため、経営経験豊富で、かつ政財界に知名度の高い人物を関東総合の代表取締役に迎えたいと希望していたため、被告の知人を介して、被告に右地位への就任を依頼した。被告は、右要請に対し、三か月余の間熟慮した末、関東総合の代表取締役に就任することを受諾し、その設立時ころ右地位に就任した(但し、取締役、代表取締役に就任する旨の登記がなされたのは同四八年一月一〇日である。)。
(三) 山口らは、前記会社設立登記に先立つ昭和四七年一一月初、埼玉県児玉郡美里村大字広木字堂上山に設立中の会社であつた関東総合の現地事務所を建設し、同年一二月一日美里村村長、重立つた地権者等に事業計画の説明をし、協力を依頼して、用地買収活動を開始した。また、関東総合は、設立後も当面は手持資金がなく、用地買収資金を会員からの入会金に依存せざるを得ない実情にあつたため、山口らは、同年一二月一日から、右資金を獲得するため、本件ゴルフクラブ会員の縁故募集を開始し、同年一二月末までには約二〇〇名の会員(入会金合計約三億円)を集めた。
(四) 建設業界の大手企業の一つである佐藤工業及び同社が発起人となつて設立した武蔵企業株式会社(以下、両社を総称して、佐藤工業という。)は、昭和四七年春、関東総合に先立つて本件地区にゴルフ場を建設する計画を立て(佐藤工業が計画したゴルフ場建設予定地が部分的に関東総合のそれと競合することは、当事者間に争いがない。)同年一二月中旬、広木地区の地権者らを集めて説明会を開催したり、地権者らにゴルフ場建設趣意書を配布するなどの宣伝活動を展開し、昭和四八年一月には、広木地区の入口付近に現地事務所を開設して、用地買収を開始した。
関東総合は、遅くとも昭和四七年一二月中旬までには、本件ゴルフ場建設用地の買収をめぐつて佐藤工業と競合関係にあることを確知したが、同年一二月中に佐藤工業が広木地区で開催した前記説明会の出席者数がさしたる人数に達しなかつたとの情報を入手したことなどから、このまま用地買収を推し進めれば、佐藤工業との競争にも勝てると判断して、これを強行することとした。しかしながら、本件地区において、関東総合と佐藤工業が、時を同じくして個別に用地買収に乗り出したことから、本件地区の地権者らは、買上げ競争に伴う地価の値上りを期待して、容易に買収に応じなくなつたため、関東総合の用地買収は難行し、当初買収を予定していた本件地区の土地約四二万坪(但し実測面積で、公簿上の面積は約三七万坪)のうち、昭和四八年二月末までに買収を完了していた分(所有権移転登記を了した分)は約一万一〇〇〇坪(公簿上。以下同じ。)、売買契約を締結して手付金を支払つた分が約五万六〇〇〇坪、売買契約を締結する旨の承諾書を受領していたに留まる分が約一二万七〇〇〇坪、売買交渉中のものが約一七万五〇〇〇坪という状況であつた。その後も、関東総合の用地買収は遅々として進まず、当初、本件ゴルフ場の完成が予定されていた昭和四八年末においても、買収を完了した分は、わずか二万坪にすぎなかつた。
(五) 一方、埼玉県は、昭和四八年二月、ゴルフ場建設のための濫開発が自然を破壊し、主として防災上も好ましくないとの判断から、ゴルフ場建設に関する規制を強化する方針を打ち出し、関東総合に対しても同月二六日、本件ゴルフ場建設のための、造成事業申出書を提出するよう、また、同県作成にかかる指導要綱所定の条件を関東総合において充足するまで、用地買収、会員募集を中止するよう行政指導を行つた(関東総合が埼玉県から、会員募集を中止するよう勧告を受けたことは、当事者間に争いがない。)。そこで、関東総合は、同年四月埼玉県知事に対し、ゴルフ場建設のための造成事業申出書を提出したが、同知事から、本件地区については佐藤工業からも同旨の書面が提出されており、このままでは関東総合提出にかかる右書面の審査ができないため、佐藤工業と協議すべき旨の回答をえた。
(六) かくして、関東総合にとつては、本件ゴルフ場を建設するうえで、佐藤工業との協定を締結することが急務となつた。そこで、被告は、佐藤工業との交渉を有利に導くためには、関東総合の陣容を強化する必要があると考え、政財界の知己と交渉した結果、衆議院議員で、佐藤工業の顧問弁護士でもある松岡松平を本件ゴルフクラブの理事長に、前衆議院議員松田竹千代を右クラブの発起人代表に、永大産業顧問の河野文博を関東総合の取締役会長に、衆議院議員荒船清十郎を関東総合の最高顧問にそれぞれ迎えることに成功した。その後、関東総合と佐藤工業との間に交渉が重ねられ、昭和四九年一月二一日、妥結をみたが、その骨子は、佐藤工業は本件地区におけるゴルフ場建設計画を中止し、既に買収済みの本件地区内の土地を関東総合に譲渡する、関東総合は、佐藤工業に対し、右土地代金等として三億五〇〇〇万円を支払う、というにあつた。
(七) 懸案となつていた佐藤工業との競合問題を解決した関東総合は、昭和四九年二月一六日改めて埼玉県知事に対し本件ゴルフ場建設のための造成事業申出書を提出し、これに基づいて同年四月以降昭和五〇年一〇月までの間、同県の行政推進委員会土地利用部会の特定幹事会において一七回にわたり、右申出書にかかる土地造成に伴う自然環境の保全及び災害の防止等についての問題が審査され、同五一年一月九日埼玉県知事から関東総合に対し、環境保全等に関する多数の条件を付したうえで、造成事業申出書の審査を了した旨の通知がなされた。しかしながら、関東総合の経営内容は漸次悪化していき、同社は、前記佐藤工業との協定に基づき、同社に対し二億三〇〇〇万円を支払つたが、残金については資金不足のために支払うことができず、結局右協定は、昭和五〇年三月一四日、右両社の合意により未履行部分が解約された。そして、関東総合は、右解約前の昭和五〇年三月六日第一回目の不渡手形を出していたのであるが、同年同月二六日には第二回目の不渡手形を出し、同年同月二九日銀行取引停止処分を受けて、事実上倒産するに至つた(関東総合が昭和五〇年三月二九日ころ銀行取引停止処分を受けたことは、当事者間に争いがない。)。以上のとおり認めることができる。
右認定事実によれば、もともと関東総合が本件地区にゴルフ場建設を計画したのは、山口から依頼されてゴルフ場開設に対する地元の意向を打診した緒方が、本件地区の一部の地権者との会合の結果好意的感触を得たという以上に積極的要因が存したものとは窺うことはできないうえ、関東総合は、その設立時から資本的基礎が詭弱で、ゴルフ場用地買収に充てうる自己資金はなく、その買収資金は、専ら募集した会員から払込まれる入会金に依存するという資金運用方式を採らざるをえなかつた(従って、この方式の下においては、会員募集と用地買収が併行して行われざるをえず、会員獲得に先立つて用地が完全に確保されることはありえない。)のであるから、関東総合には、当初から用地買収の成功及びその時期について確実な見通しは存在しなかつたものと推認して妨げない。加えて、関東総合は、その設立早々から建設業界の大手である佐藤工業との競合という困難な問題を抱えて、用地買収は容易に進展せず、昭和四八年二月末の時点では買収予定面積の僅か三パーセントに相当する分の買収を完了したにすぎず、更に、同年同月埼玉県のゴルフ場建設に対する規制が強化され、同月二六日には関東総合に対し、用地買収と会員募集を中止するよう行政指導がなされるに及んで、関東総合が本件地区内に所要のゴルフ場用地を買収しうるか否か、仮にそれが可能であるとしてその時期はいつかという点については、全く見通しが立たない状態に立ち至つたと認むべきである。そして、関東総合の代表取締役たる被告は、その地位に鑑み、少なくとも、右のような関東総合の資金面での詭弱さ、ゴルフ場用地買収の当初からの困難性、更には昭和四八年二月二六日以降における用地買収の見通しさえ立たない事態など関東総合の経営の基礎に係る重要事項について、認識していたものと推認すべきである。
2 <証拠>を総合すれば、次の事実を認めることができ<る。>
(一) 関東総合は、昭和四七年一二月ころ、会員募集に使用するために、「DOUG SANDERS IN TSUBURA-DA」という表題の宣伝用パンフレットを作成して、一般に頒布したが、このパンフレット中、代表取締役たる被告の「ごあいさつ」と題する記事には、「円良田カントリークラブは都心より一時間でティーアップできるまたとない用地を確保いたしました。」との文言が掲載され、また、「コース概要」と題する記事には、「昭和四八年一一月コース完成、昭和四九年一〇月二七ホールオープン予定」と記載されている。
(二) 関東総合は、本件ゴルフ場のコース設計をアメリカのプロゴルファー、ダグ・サンダースに依頼していたが、昭和四八年一月中旬には同人を日本に招聘し、同月一八日都内のホテルオークラにおいて「ダグ・サンダースと語る夕べ」と題する歓迎会を盛大に催した。その席上、記者会見に応じた被告と関東総合取締役の山口は、「ゴルフ場用地をほぼ確保している」旨の発言をした。
(三) 関東総合は、昭和四八年一月二〇日付夕刊フジの全面広告欄を用いて、本件ゴルフ場がダグ・サンダースの設計になるものであることなどを紹介したうえ、その下段に「二七ホール(昭和四九年一〇月オープン予定)」、「設計/ダグ・サンダース」、「二七ホール用地完全買収済、一三八万六〇〇〇平方メートル(約四二万坪)」、「コース/埼玉県児玉郡美里村内」等の広告文を掲載した。
(四) 他方、昭和四八年三月一〇日付の業界新聞「ゴルフ会員権投資」には関東周辺の新設ゴルフ場の紹介がなされているが、その中で本件ゴルフクラブに関しては、開場予定は「昭和四九年一〇月」、工事進行状況は「用地買収済・測量中」とされている。更に、業界新聞「ゴルフニュース」の昭和四八年四月一日版、同月一五日版にも関東周辺のゴルフコース新設状況が紹介されており、本件ゴルフクラブの用地買収状況については、「用地八〇パーセント買収契約済、残り交渉中だが三月中に契約(会社側発表)」(右四月一日版)、「用地八〇パーセント買収契約済、残り交渉中」(右四月一五日版)などの記載がある。
(五) 関東総合の会員募集担当の従業員らは、原告らに対し、本件ゴルフ場用地は買収済みであり、本件ゴルフクラブは、昭和四九年一〇月には確実に全面開業できる旨告げて、同クラブへの入会を勧誘した(この点は、前記二で認定したとおりである。)。
右の認定事実によれば、関東総合は、その用地買収の実態が前記1のとおりであつたにも拘わらず、外部に対しては、用地の全部又は大部分の買収が完了した旨の虚偽の事実を流布していたことが明らかである(右(一)の事実のうち「用地を確保いたしました。」との文言、右(二)の事実のうち「ゴルフ場用地をほぼ確保している。」との発言は、その表意者の真意はともかくとして、これらを読み又は聞く者をして、関東総合が、所要のゴルフ場用地の買収を完了した。或いは、その大部分を買収したとの印象を与えることは否めない。また、右(四)の新聞記事は、新聞発行者が全くの憶測のみに基づいて掲載したとは考え難く、却つて昭和四八年四月一日付「ゴルフニュース」の記事に「会社側発表」との記載がなされていることを推すと、右各新聞記事の取材源は関東総合にあるとみるのが自然である。)。
3 そこで、前記1、2の説示に基づいて考えるに、関東総合の代表取締役たる被告は、関東総合が、ゴルフ場用地の買収資金を専ら本件ゴルフクラブに入会する者から払込まれる入会金に依存するという詭弱な体質であるのに、その用地買収に障害があつて、これが遅々として進展しなかつたのであるから、会社経営の最高責任者として、代表取締役就任後直ちに、関東総合の役員や従業員らが、本件ゴルフクラブの会員を募集するに当たり、文書などを用いて用地買収の進度につき虚偽の事実を流布したり、又は会員となろうとする者に虚偽の事実を告げて、同クラブへの入会を勧誘するなどの不当な営業方法をとらないよう命令、指示その他の措置を採るべき職務上の義務があり、別けても、昭和四八年二月二六日関東総合が埼玉県知事から用地買収を中止すべき旨の行政指導を受けて、用地買収の見通しが全く立たなくなつた後においては、関東総合の会員募集活動を直ちに全面的に停止するか、会員となろうとする者に対し、予め関東総合が直面している事態を率直に説明して了解を求めるなどの営業方法を採るよう命令・指示すべき職務上の義務があつたといわなければならない。しかるに、被告は、代表取締役として、右のような職務上の義務を履行することが極めて容易であつたのに、これを怠り、関東総合の宣伝方法、営業方法について格別の命令・指示することなく、他の役員や従業員のなすがままに任せていたのであるから、その職務を行うにつき重大な過失があつたというべきである。
そして、原告らが関東総合との間にそれぞれ入会契約を締結し、関東総合に対し、別表<省略>②記載の年月日に、同表①記載の金額の入会金を払込んだことは前記認定のとおりであるところ、<証拠>によれば、各原告が右入会契約を締結するについては、前記認定にかかる各種宣伝文書を目にし、かつ、関東総合の従業員から、本件ゴルフ場用地は買収済である旨口頭で告げられ、本件ゴルフ場の建設が確実であると信じたことが強い誘因となつていることが認められるから、被告の前記職務懈怠と前記原告らの各入会契約の締結との間には因果関係があるというべきであり(被告が前記職務上の義務を尽していれば、関東総合において不当な営業方法をとることはなかつたものと容易に推認できる。)、したがつて、被告は、原告らが右入会契約を締結したことにより被つた後記損害の賠償義務を負うというべきである。
(高山晨 小池信行 深見玲子)